地域医療や在宅医療の拡充を視野に「止まらない」ネットワークを強化
医療法人森和会 行橋中央病院は、専門性の高い糖尿病治療などで地域医療に貢献されています。
いち早く電子カルテシステムを導入するなど診療・看護の高度化を推進しており、電子カルテシステムの更新に合わせて院内ネットワークを再構築しました。高速・広帯域の「止まらない」基幹ネットワークを構築するとともに、病棟・診察室の「途切れない」無線LAN環境を整備しています。
さらに訪問診察・看護にセキュアなリモート・アクセスによる電子カルテの利用を検討するなど、院内のネットワーク・システムと在宅医療の連携を視野に入れています。
- 医療法人森和会 行橋中央病院
- 所在地:福岡県行橋市西宮市5-5-42
- 開院:2001年
- 病床数:148床(一般病床98床、療養病床50床)
- 診療科目:糖尿病内科、肝臓内科、消化器内科など9つの診療科
- 診療支援部門:人工透析、リハビリテーション、放射線、臨床検査など
- 病気の発見・治療だけでなく、人々に生きる喜びを感じられる医療を提供することが21世紀の理想的な病院の姿と考え、生きがいのある生活を実現する医療環境づくりを続けている。
- URL:http://www.ych21.com
Web型電子カルテ更新に合わせ院内ネットワークを再構築
行橋中央病院
[常務理事] 山内 徹氏
行橋市は福岡県東部に位置し、工業・商業などが盛んな北九州市中心部から約25kmと比較的近いことから、ベッドタウン化が進展しました。駅周辺にはマンションや大型ショッピングセンターなども建設が進み、医療法人森和会は2001年に現在地への移転を契機に、地域医療へのさらなる貢献を目指して行橋中央病院を新たにスタートさせました。地域住民はもちろん、周辺地域からも多くの患者が治療に訪れています。そして、2003年には糖尿病治療とその合併症治療、糖尿病性腎症の人工透析など一貫した治療が行える施設を拡充し、東棟の増設や最新医療機器の導入などを行い、最良の医療の提供と医療の質の向上に取り組む。診療科は、糖尿病内科、肝臓内科、循環器内科、整形外科などがあり、病床数は148床。急性期・亜急性期の入院患者のほか、糖尿病についての正しい知識を身に付け、退院後も適切な生活習慣を継続していけるよう2週間程度の糖尿病教育入院などを実施する。こうした医療活動を支えるため、ITを積極的に活用。2007年には、電子カルテ、オーダリング、医事会計、看護支援など各システムを統合するWeb型電子カルテシステムを導入。パソコンをベースに、PACS、臨床検査、生理検査などの検査結果を同一端末上で参照することも可能だという。「医療情報システムの刷新に合わせ、老朽化した院内ネットワーク機器を全面的に再構築しています」と、行橋中央病院の常務理事を務める山内徹氏は述べる。
「止まらない」「途切れない」院内ネットワークが要件
行橋中央病院
[事務部総務課] 小松 憲喬氏
行橋中央病院では、2003年の東棟増設時に院内ネットワークを構築。100Mbpsの基幹ネットワーク、および無線LANを整備し、院内のどこからでも電子カルテの情報を利用できる環境づくりを進めてきた。だが、病棟は回廊型の構造で無線LANの電波がうまく届かない場所もあったという。「電波が途切れ、看護師が患者さんのベッドサイドで入力した情報の再入力が必要になる場合もあり、次第に無線LANが使われなくなってしまったのです」と、ITを担当する事務部総務課の小松憲喬氏は当時の様子を説明する。その結果、看護師はベッドサイドで患者さんの情報を紙に記録し、ナースステーションに戻ってからパソコンで電子カルテシステムに入力するといった作業が余儀なくされていた。「このようなこともあり、ベッドサイドで効率よく入力することと、院内のどこからでも情報を参照できるようにすること。電子カルテのメリットを活かせるよう、無線LANを含め院内ネットワークを全面的に再構築することになったのです」と山内氏はネットワーク刷新の狙いを説明する。新たな院内ネットワークの要件は「止まらないこと」「途切れないこと」だ。院内ネットワークが止まったり、途切れたりすれば、電子カルテシステムが使えず、その間、診療や会計などの業務がストップする。そこで、従来から同病院のネットワークの保守・運用などを担うユニティリンクに新たな院内ネットワークの設計・構築を依頼した。
経路の冗長化により高信頼の院内ネットワークを構築
院内ネットワーク再構築の依頼を受けたユニティリンクの藤文也は「今後、10年間は使い続けられる性能と拡張性を備えたネットワークを提案しました」と述べる。具体的には院内に新たに光ファイバーケーブルを敷設するとともに、アライドテレシス社のVCS対応コア・スイッチを2台導入し、冗長化した高速・広帯域のギガビットネットワークを構築する。コア・スイッチと東棟、西棟に設置されたフロア・スイッチで構成される基幹ネットワークはリンクアグリゲーションにより経路の冗長化と広帯域化を実現した。
院内の無線LANシステム
(エクストリコム無線AP)
また、無線LANは、アライドテレシス社の無線LANアクセスポイントのほか、エクストリコム社の無線LANシステムを導入している。エクストリコムの無線LANシステムは、従来のセルプランニングではなく、チャンネルブランケットと呼ぶ新たな手法を採用。すべてのアクセスポイントを同一のチャンネルで運用することにより、院内を移動中にもハンドオフによる遅延や途切れのないシームレスな無線LAN通信が行える特長がある。行橋中央病院では、ローミングする機会が多い病棟にはエクストリコム製品、有線LANと併用する診察室や事務室はアライドテレシス製品というように使い分けて設置している。診察室も無線LAN環境にすることで、「医師は診察で使用する自分のノートPCを病棟でも簡単に使えるようになりました」と山内氏は無線LAN環境の利便性への満足を述べる。
医療機関で評価されるネットワーク・ソリューション
行橋中央病院では、2012年8月から新たな基幹ネットワークと無線LANシステムが稼働を開始。その導入効果について、小松氏は「病棟では無線LANの電波も途切れることなく、看護師はベッドサイドで患者さんのデータを入力したり、医師が画像を含め電子カルテの情報を確認したりしながら患者さんと接することができ好評です」と話す。今後、無線LANを活用し、「3点チェック」の導入を検討する考えもあるという。有線LANについては、従来から電子カルテ系と画像系を同一の院内ネットワークで運用。以前は電子カルテのレスポンスに時間がかかることもあったというが、高速・高信頼のネットワークになり、快適に利用できるという。以前のコア・スイッチはシングル構成で、万一のトラブル時は予備機を交換する仕組みだ。「コア・スイッチの冗長化と院内ネットワークの集中管理機能により安心感が増しました」と小松氏は述べる。
地域医療の拡充に向けて期待されるセキュアなリモート・アクセス環境
コアスイッチ周り
行橋中央病院では、病診連携など地域の医療機関との連携にITを活用している。例えば、同じグループのやまうち内科クリニックと行橋中央病院が連携。糖尿病の合併症の精密検査などを行い、早期発見、早期治療と予防に取り組む。クリニックではASP型の電子カルテシステムを導入。「クリニックの患者さんが急患として行橋中央病院で診察を受ける場合にも、当院の医師がVPNで安全にASP型電子カルテを参照できるIT環境を整備しています」と山内氏は、病診連携の取り組みを述べる。また、厚生労働省では、在宅医療・介護を推進。可能な限り、住み慣れた生活の場において必要な医療・介護サービスが受けられ、安心して自分らしい生活を実現できる社会を目指す。こうした状況の中、行橋中央病院では在宅療養支援診療の許可を受け、訪問診察を実施。今後、医師・看護師がノートPCやタブレット端末を利用して患者さんの自宅からネットワーク経由で院内の電子カルテシステムを参照する仕組みを検討するという。「電子カルテには重要な個人情報が含まれるため、外部から電子カルテを利用するにはセキュリティ確保が大前提となります。安全にリモート・アクセスできるネットワーク環境の提案をお願いしたいですね」と、山内氏は期待する。電子カルテシステムと院内ネットワークを基盤に、ITを活用した病診連携、地域医療の拡充に力を入れる行橋中央病院の取り組みが注目される。
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